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マンションの管理費や修繕積立金を毎月支払っているけれど、その中から管理会社へ支払われる「管理委託費」が、具体的にどのような業務に使われているのか、正確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。また、「管理会社がすべてを決めている」と思われがちですが、実はマンション運営の主役は管理会社ではありません。
この記事では、マンション管理士の視点から、マンション管理の具体的な業務内容を法的根拠に基づいて徹底解説します。管理の主体である「管理組合」と、業務を代行する「マンション管理会社」の役割の違いを明確にし、あなたのマンションの管理状況を正しく理解するための一助となることを目指します。現在の管理委託費が妥当か、管理会社の見直しを検討する上での実践的なヒントもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
マンション管理の業務内容とは?法的根拠と4つの基幹業務
マンション管理会社の業務内容は、感覚や慣習で決められているわけではありません。その多くは、国土交通省が作成した「マンション標準管理委託契約書」という雛形に基づいており、大きく4つの業務に分類されます。
法的根拠は国土交通省「マンション標準管理委託契約書」
管理組合と管理会社が結ぶ「管理委託契約書」は、多くの場合、国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」をベースに作成されています。この契約書には、委託する業務内容が別表として具体的に定められており、これが管理業務の根拠となります。
業務は主に以下の4つに大別されます。
- 事務管理業務(別表第一)
- 管理員業務(別表第二)
- 清掃業務(別表第三)
- 建物・設備管理業務(別表第四)
これらの業務は、マンションという共同資産の価値を維持し、住民が安全で快適な生活を送るために不可欠なものです。
マンション管理の品質は、管理組合と管理会社の間で「どの業務を、どこまで委託するか」が明確に合意されているかどうかに大きく左右されます。
① 事務管理業務:管理組合の運営をサポートする頭脳役
事務管理業務は、管理組合の会計や総会・理事会の運営支援など、マンション管理の中枢を担う業務です。お金の管理や意思決定のサポートが主な役割となります。(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」別表第一)
- 管理組合の会計の収入及び支出の調定・出納
- 管理費等の収納、支払、管理
- 理事会・総会の支援(開催準備、議事録案の作成等)
② 管理員業務:マンションの「顔」となる日常業務
管理員(管理人さん)は、マンションの窓口として居住者と日々接する重要な役割を担います。受付や点検、業者作業の立ち会いなど、日常的な管理業務を行います。(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」別表第二)
- 受付・案内等の業務(来訪者、入居・退去届等)
- 点検業務(建物・諸設備の目視点検、電球の点灯確認等)
- 立会業務(外注業者の作業時の立会い等)
- 報告連絡業務(管理組合への業務報告、各種届出の受理等)
③ 清掃業務:資産価値を維持する美観管理
共用部分の清掃は、マンションの美観を保ち、資産価値を維持するために欠かせません。日常的に行う清掃と、機械などを使って定期的に行う清掃に分かれます。(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」別表第三)
- 日常清掃:エントランス、廊下、階段、ゴミ集積所などの清掃
- 定期清掃:床面の機械洗浄、ワックスがけ、窓ガラス清掃など
④ 建物・設備管理業務:安全な暮らしを守るインフラ維持
エレベーターや消防設備、給排水設備など、専門的な知識が必要な設備の保守・点検業務です。法律で点検が義務付けられている設備も多く、住民の安全を直接的に守る重要な業務です。(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」別表第四)
- エレベーター設備の保守・点検
- 消防用設備等の保守・点検
- 給排水、衛生設備の保守・点検
- 機械式駐車場設備の保守・点検
【最重要】管理組合と管理会社の役割分担|主体はあくまで管理組合
マンション管理において最も重要なことは、「誰が意思決定を行い、誰が実務を行うのか」を正しく理解することです。結論から言うと、マンション管理の主体は管理組合であり、管理会社は業務を代行するパートナーという関係です。
管理組合は「意思決定機関」、管理会社は「業務代行者」
多くのマンションで、管理業務は管理会社に委託されているため、管理会社がすべてを取り仕切っているように見えるかもしれません。しかし、法律上の位置づけは明確に異なります。
- 管理組合:区分所有者全員で構成される団体(建物の区分所有等に関する法律 第3条)。マンションの管理に関する最終的な意思決定を行います。例えば、予算の承認、工事の実施、規約の変更などは、すべて管理組合の総会決議によって決定されます。
- 管理会社:管理組合との「管理委託契約」に基づき、専門的な知識やノウハウを活かして業務を代行・実行する事業者です。管理組合の決定なしに、勝手に工事を発注したり、管理費の値上げを決めたりすることはできません。
この関係性は、会社の「株主総会・取締役会(意思決定)」と「従業員(業務実行)」の関係に似ています。
【重要】決議要件に関する注意点
区分所有法第39条第1項は、総会の普通決議を「区分所有者及び議決権の各過半数」と定めていますが、この規定は管理規約で別段の定めをすることを妨げません。 実際の決議要件は、必ずご自身のマンションの管理規約をご確認ください。
【対比表】委託できる業務と組合固有の業務の境界線
管理組合と管理会社の役割の違いを、以下の表にまとめました。
比較項目 | 管理組合 | マンション管理会社 |
---|---|---|
立場・役割 | 主体・意思決定機関 | 委託先・業務代行者 |
権限の源泉 | 総会決議(区分所有法・管理規約) | 管理委託契約書 |
主な業務・権限 | ・規約の制定、変更 ・予算、決算の承認 ・大規模修繕工事の実施決定 ・役員の選任、解任 | ・会計報告、点検手配 ・清掃、管理員業務の実施 ・理事会、総会の運営支援 ・組合の決定に基づく実務 |
お金の流れ | 管理費・修繕積立金の徴収・所有者 | 委託された範囲での出納・管理 |
大多数のマンションが管理業務を専門家に委託している実態
管理組合が主体とはいえ、専門的な知識が必要な業務や日常的な業務をすべて区分所有者だけで行うのは現実的ではありません。そのため、多くのマンションでは管理業務を専門家である管理会社に委託しています。
国土交通省の調査によると、マンション管理事務の委託状況は「全部委託」が74.3%、「一部委託」が17.1%となっており、合計91.4%の管理組合が何らかの形で管理会社に業務を委託していることがわかります。
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」p.36)
このデータからも、管理組合と管理会社が適切に連携・協力することが、良いマンション管理の鍵であることがわかります。
業務内容の核心「事務管理業務」の具体的な中身
4つの基幹業務の中でも、特に重要性が高く、専門性が求められるのが「事務管理業務」です。この業務は、マンションの財産を直接的に扱うため、法律でも特別な規定が設けられています。
基幹事務①②:会計・出納業務(管理費・修繕積立金の管理)
会計・出納業務は、区分所有者から集めた管理費や修繕積立金の収納、保管、そして日常の経費支払いや業者への支払いなど、管理組合のお金を管理する業務です。
- 管理費・修繕積立金の徴収と収納口座の管理
- 滞納者への督促(※法的手続きは弁護士の領域)
- 共用部分の水道光熱費や保険料などの支払い
- 月次の会計報告書の作成と理事会への報告
- 収支予算案・決算案の素案作成支援
これらの業務の透明性が、管理組合運営の信頼性の根幹となります。
基幹事務③:維持・修繕の企画・調整業務
建物の劣化状況を把握し、長期修繕計画に基づいて適切な時期に修繕工事が行われるよう、企画・調整する業務も事務管理業務に含まれます。
- 長期修繕計画案の作成・見直しの補助
- 建物・設備の点検結果に基づく修繕の提案
- 修繕工事の見積もり取得の補助
- 工事業者との連絡・調整
管理会社の専門的な知見が最も活かされる分野の一つです。
なぜ「基幹事務」の一括再委託は禁止されているのか?
事務管理業務のうち、「①管理組合の会計の収入及び支出の調定」「②出納」「③マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整」の3つは、特に重要な業務として「基幹事務」と定義されています(マンションの管理の適正化の推進に関する法律 第2条第6号)。
そして法律は、この基幹事務を管理会社がすべてまとめて他の業者に丸投げ(一括再委託)することを、その施行規則によって禁止しています。これは、管理組合の大切な財産を守り、管理会社の責任の所在を明確にするための重要なルールです。管理会社は、これらのコア業務については自ら責任を持って遂行することが求められています。
その他業務:理事会・総会の運営支援
基幹事務以外にも、管理組合の円滑な運営をサポートする重要な業務があります。
- 理事会・総会の開催案内(招集通知)の作成・発送
- 議案書の作成補助
- 総会当日の議事進行の補助
- 議事録案の作成
特に、理事会役員が初めての方にとっては、管理会社のサポートは非常に心強いものとなります。
【実践】管理会社の選び方と見積もりのポイント
現在の管理に不満がある、管理委託費を見直したいといった理由で管理会社の変更を検討する際には、いくつかのポイントを押さえることが成功の鍵となります。
実務上、過度な相見積もりが敬遠される傾向とは?
※以下は実務上の一般的な傾向であり、必ずしもすべてのケースに当てはまるものではありません。
コスト削減のために、できるだけ多くの会社から見積もりを取りたいと考えるかもしれません。しかし、特に20〜40戸規模の小〜中規模マンションにおいて、5社以上の過度な相見積もりは、かえって良い結果を生まない可能性があります。
管理会社側の視点に立つと、精度の高い見積書を作成するには、以下のような多大な労力がかかります。
- 現地調査:建物の規模、設備の状況、劣化具合などを確認するため、複数回現地に足を運ぶ。
- 協力会社との折衝:清掃、エレベーター、消防設備など、各専門業者から見積もりを取得・調整する。
- 資料の読み込み:現在の管理規約、長期修繕計画、会計資料などを精査する。
- 理事会との面談:管理組合が抱える課題や要望をヒアリングする。
多くの会社が参加するコンペ形式では、受注できる確率が低いにも関わらず、これらのコストと時間をかけなければなりません。そのため、体力のある大手や、受注に積極的な一部の会社しか応じず、本当にそのマンションに合った提案をしてくれる優良な会社が参加を敬遠してしまう恐れがあるのです。
小〜中規模マンションなら2〜3社への依頼が現実的な選択肢
小〜中規模のマンションであれば、あくまで一つの選択肢として、管理組合内で候補となる会社を2〜3社に絞り込み、それぞれの会社とじっくり向き合うことをお勧めします。もちろん、マンションの規模、予算、理事会の体制によって最適な方法は異なります。
候補を絞り込むことで、管理会社側も「受注の可能性が高い」と判断し、より真剣にマンションの課題分析や改善提案を行ってくれる可能性が高まります。結果として、質の高い提案内容を比較検討できるようになるでしょう。
必ず「業務内訳がわかる詳細見積書」を請求する
見積もりを依頼する際に最も重要なのは、「一式」といった大雑把な項目ではなく、業務ごとの内訳がわかる詳細な見積書を提出してもらうことです。
(見積もり項目のチェックポイント) ・事務管理業務費 ・管理員業務費 ・清掃業務費 ・建物・設備管理業務費(エレベーター、消防、給排水など各項目に分かれているか) |
内訳が明確であれば、どの業務にどれくらいのコストがかかっているのかが分かり、他社との比較やコスト削減の交渉がしやすくなります。
見積もり依頼前に管理組合内で「委託したい業務」を明確にする
管理会社に見積もりを依頼する前に、理事会や専門委員会などで「今の管理の何が問題で、新しい管理会社に何を期待するのか」を議論し、要望を整理しておくことが不可欠です。
- 清掃の頻度や質を上げたい
- 管理員の勤務時間を変更したい
- 理事会の運営サポートをもっと手厚くしてほしい
要望が具体的であればあるほど、管理会社は的確な提案と見積もりを出しやすくなります。
マンション管理に関するよくある誤解とQ&A
最後に、マンション管理に関してよくある質問や誤解についてお答えします。
Q. 賃貸の「物件管理」とは何が違う?
A. 目的と対象が全く異なります。
- 分譲マンション管理:本記事で解説してきた業務です。区分所有者全員の資産価値維持を目的とし、管理組合の運営を支援します。
- 賃貸物件管理(PM/プロパティマネジメント):アパートや賃貸マンションのオーナーから委託を受け、オーナー個人の収益最大化を目的とします。主な業務は、入居者募集、家賃集金、クレーム対応、退去時の精算などです。
両者は似ているようで、その役割と目的は大きく異なります。
Q. 管理会社がすべてを決めているのではないの?
A. 決めていません。最終的な意思決定権は、常に管理組合にあります。
前述の通り、管理会社はあくまで管理組合の決定に基づいて業務を行う「業務代行者」です。もし管理会社主導で物事が進んでいるように見えるなら、それは管理組合(区分所有者)の関心が低く、管理会社からの提案をそのまま承認している状態かもしれません。マンションを良くも悪くもするのは、管理組合の意思決定次第です。
Q. 「管理計画認定制度」は管理会社を評価する制度?
A. いいえ、管理会社ではなく「マンション(管理組合)の管理状態」を評価・認定する制度です。
「管理計画認定制度」や「マンション管理適正評価制度」は、マンションの管理レベルを客観的に評価するための仕組みですが、その目的や評価主体が異なります。
- 管理計画認定制度:地方公共団体(市区町村など)が、管理組合の策定した管理計画を審査・認定する制度です。
- マンション管理適正評価制度:管理組合自身が管理レベルを可視化するための仕組みで、マンション管理業協会に登録された評価者が評価内容を確認します。
これらの認定・評価を受けることは、マンションの管理レベルが高いことを示すものであり、資産価値にも良い影響を与える可能性がありますが、いずれも特定の管理会社を格付けしたり評価したりする制度ではない点を正しく理解しておく必要があります。
まとめ:良い管理は「管理委託契約書」の理解から始まる
今回は、マンション管理の具体的な業務内容について、法的根拠や管理組合との役割分担を交えながら解説しました。
- マンション管理の業務は「事務管理」「管理員」「清掃」「建物・設備管理」の4つが基本。
- 管理の主体はあくまで「管理組合(意思決定機関)」であり、管理会社は「業務代行者」。
- 事務管理業務、特に「基幹事務」は財産管理の要であり、法律で厳しく規制されている。
- 管理会社を選ぶ際は、2〜3社に絞って詳細な見積もりを依頼するのが現実的かつ効果的な選択肢の一つ。
マンション管理の質は、そこに住む人々の快適性や資産価値に直結します。この記事をきっかけに、まずはご自身のマンションの「管理委託契約書」や「総会議案書」に目を通し、どのような業務が委託され、どのように運営されているのかを確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
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免責事項
本記事は、2025年10月17日時点の法令情報に基づき、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定のマンションや個別の事案に対する法的助言を意図したものではありません。実際の管理組合運営や契約にあたっては、必ず最新の法令やご自身のマンションの管理規約、管理委託契約書の条項をご確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。
参考資料
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000053.html
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001730413.pdf
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000149
- e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413M60000802100
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。