自主管理マンションの3大リスクとは?資産価値を守るための対策を解説

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管理会社に支払う管理委託費を削減できる「自主管理マンション」。コストメリットに魅力を感じる一方、その裏には資産価値を大きく損なう可能性のある重大なリスクが潜んでいます。専門知識の不足から会計トラブルや建物の劣化を招いたり、役員のなり手不足で運営そのものが立ち行かなくなったりするケースも少なくありません。

この記事では、マンション管理士の視点から、自主管理マンションが直面する「会計・金銭面」「建物・維持管理面」「人間関係・運営面」の3つのリスクを、最新の法改正や国土交通省の公的なデータに基づいて具体的に解説します。さらに、リスクを回避するための実践的な対策や、自主管理が困難になった場合の委託管理への移行プロセスまで、網羅的にご紹介します。

本記事を読めば、自主管理のリスクを正しく理解し、あなたのマンションにとって最適な管理方法を見極めるための知識が身につきます。

💬 読者の疑問: 「自主管理」って、具体的に何を自分たちでやるんだろう?管理会社に頼むのと何が根本的に違うの?

まず、「自主管理」という言葉の定義と、法律上の位置づけを正確に理解することが重要です。管理の方式には、自主管理のほかに、業務をすべて委託する「全部委託」や、一部だけを委託する「一部委託」があります。それぞれの違いを明確に区別しましょう。

管理の主体は「管理組合」− 法律上の根拠

マンションの管理について定めた「建物の区分所有等に関する法律」(以下、区分所有法)では、マンションの所有者全員で構成される「団体(=管理組合)」が、建物や敷地、附属施設の管理を行うと定められています(区分所有法 第3条)。

つまり、マンション管理の本来の主体は、管理会社ではなく、そこに住む所有者自身で構成される「管理組合」です。

自主管理とは、この原則に基づき、管理組合が管理会社に業務を包括的に委託せず、会計、清掃、修繕計画などの管理業務を自らの責任で直接運営する管理方式を指します。一方、多くのマンションで採用されている「委託管理」は、これらの業務の全部または一部を、専門家である管理会社に費用を支払って委託する方式です。

【比較表】自主管理・一部委託・全部委託のメリット・デメリット

自主管理、一部委託管理、全部委託管理の違いを、コスト、役員の負担、管理品質の観点から比較してみましょう。

管理方式メリットデメリット
自主管理・管理委託費が不要でコストを抑えやすい
・住民の管理意識が高まりやすい
・意思決定が迅速
・役員の負担が非常に大きい
・専門知識が不足しがち
・会計不正や建物劣化のリスクが高い
一部委託管理・全部委託よりコストを抑えられる
・専門知識が必要な業務のみ委託できる
・役員の負担を軽減できる
・責任の所在が曖昧になりやすい
・委託業務と自主管理業務の連携が難しい
全部委託管理・役員の負担が大幅に軽減される
・専門的な知見に基づいた管理が期待できる
・トラブル対応や法改正への対応がスムーズ
・管理委託費が発生する
・管理会社任せになり、住民の関心が薄れやすい

💡 気づき: コストを抑えようとすれば役員の負担が増え、負担を減らそうとすればコストがかかる、というトレードオフの関係にあるんですね。

目次

メリットはコスト削減だけではない?自主管理が選ばれる理由

自主管理が選択される最大の理由はコスト削減ですが、それ以外にもメリットは存在します。ただし、これらのメリットを享受するには、後述するリスクへの適切な対策が不可欠です。

管理委託費が不要になることによる経済的メリット

自主管理の最大の魅力は、管理会社へ支払う「管理委託費」が不要になる点です。管理委託費は、管理費・修繕積立金に次ぐ大きな支出項目であり、これを削減できれば、その分を修繕積立金に充当したり、管理費自体を低く設定したりすることが可能になります。
ここで注意したいのは、区分所有者が管理組合に支払う「管理費」と、管理組合が管理会社に支払う「管理委託費」は別物であるという点です。自主管理で不要になるのは後者の「管理委託費」です。

住民の管理意識向上と迅速な意思決定

管理会社に任せきりにせず、自分たちの手でマンションを運営することで、住民一人ひとりの「自分たちの財産は自分たちで守る」という意識が高まる傾向があります。
また、管理会社との調整が不要なため、小規模な修繕やルールの変更など、管理組合内で合意が取れれば迅速に意思決定を行い、実行に移せる点もメリットと言えるでしょう。

【2025年最新】区分所有法改正が自主管理に与える影響

2025年5月23日、老朽化マンションの管理・再生の円滑化を目的とした「建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました(同月30日公布)。主な改正ポイントは以下の通りです(区分所有法は2026年4月1日施行予定)。

建替え決議要件の緩和

  • 従来の5分の4から4分の3に緩和されます(耐震性不足等の一定要件を満たす場合)。自主管理マンションでは、専門家の助言なしにこの要件判断を誤るリスクがあります。

所在不明所有者への対応

  • 裁判所の決定により、所在不明の区分所有者を決議の分母から除外可能になります。自主管理では、この裁判手続きの申立てを適切に行えるかが課題となります。

管理不全建物への行政介入

  • 管理が適切に行われていないマンションに対し、行政が是正勧告・命令を出せる制度が新設されました。自主管理で適正管理を怠った場合、行政指導の対象となる可能性があります。

※本改正の詳細は、国土交通省の関連資料をご確認ください。

【本題】自主管理マンションに潜む3つの重大リスク

コスト削減などのメリットがある一方で、自主管理には専門知識やノウハウの不足から生じる、看過できない3つの重大なリスクが存在します。ここでは、国土交通省の最新の統計データなども交えながら、その実態を解説します。

リスク1:会計・金銭面のトラブル(滞納・不正・横領)

管理組合の会計業務は、専門的な知識が求められる複雑な作業です。知識不足からくる会計処理のミス、管理費の滞納者への督促の遅れは、自主管理で頻発する問題です。
さらに深刻なのは、チェック機能が甘くなることで、理事長や会計担当者による修繕積立金の横領といった不正行為のリスクが高まることです。

国土交通省「マンション標準管理規約」では、収支報告や会計帳簿の作成、監事による監査など、会計の透明性を確保するためのルールがモデルとして示されています。ただし、標準管理規約はあくまでガイドラインであり、法的強制力はありません。各マンションの実際の規約内容を確認し、遵守することが重要です。

管理費の滞納が続くと、必要な修繕が行えなくなる可能性があります。より詳しい対策については、こちらの記事も参考にしてください。
関連記事:マンション管理費の滞納者への有効な対策とは?法的手続きまで解説

リスク2:建物・維持管理面の劣化(専門知識不足・修繕積立金不足)

マンションの資産価値を長期的に維持するためには、計画的な修繕が不可欠です。しかし、建築や設備に関する専門知識がなければ、建物の劣化状況を正しく判断し、適切な時期に必要な修繕工事を行うことは非常に困難です。

結果として、

  • 本来必要な修繕が見送られ、建物の劣化が進行する
  • 不適切な長期修繕計画により、将来の修繕積立金が不足する

といった事態を招きます。国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、長期修繕計画を作成している管理組合は全体の92.8%にのぼりますが、その計画が適切かどうかを判断するには専門的な知見が必要です。知識不足のまま自主管理を続けると、気づいた時には大規模な修繕が必要となり、一時金の徴収など住民に大きな負担を強いることになりかねません。

長期修繕計画の適切な見直し方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:長期修繕計画の見直しのポイントは?費用や周期を徹底解説

リスク3:人間関係・運営面の崩壊(役員のなり手不足・合意形成の困難)

自主管理は、一部の役員に業務負担が極端に集中しがちです。会計、書記、理事長といった役職は責任が重く、専門的な知識も求められるため、「誰もやりたがらない」という状況に陥りやすくなります。

実際に、国土交通省の最新の調査では、管理組合運営における課題として「役員のなり手不足」が深刻な問題として浮かび上がっています。

管理組合の運営における現在の課題(複数回答)
役員のなり手不足:48.0%
・組合員の無関心:45.7%
・居住者の高齢化:38.6%

(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)

特定の人が長期間役員を続けると、運営が不透明になったり、他の住民が無関心になったりする弊害も生まれます。また、修繕工事の実施や規約の変更など、重要な意思決定の場面で住民間の意見が対立し、合意形成が進まずに管理が停滞してしまうリスクもあります。

資産価値を守る!今日からできる自主管理リスクへの具体的な対策

ここまで解説した3つのリスクは、決して他人事ではありません。しかし、適切な対策を講じることで、リスクを軽減し、健全な自主管理を継続することは可能です。

会計リスク対策:会計業務の透明化と外部チェック機能の導入

金銭トラブルを防ぐ最も有効な手段は、会計業務の透明化です。

  • 通帳と印鑑の分別管理: 会計担当者が通帳を、理事長が印鑑を保管するなど、一人が単独で出金できない仕組みを作る。
  • 定期的な会計報告: 毎月の収支状況を掲示板や回覧で全戸に報告し、誰もが確認できるようにする。
  • 外部専門家による監査: 年に一度、マンション管理士などの第三者に会計監査を依頼し、客観的なチェックを受ける。

これらの対策は、不正の抑止力となるだけでなく、万が一ミスがあった場合にも早期に発見できる体制を築く上で非常に重要です。

建物リスク対策:「長期修繕計画作成ガイドライン」に沿った計画の見直し

建物の劣化リスクに対応するには、専門家の知見を取り入れることが不可欠です。

  • ガイドラインの活用: 国土交通省が公表している「長期修繕計画作成ガイドライン」を参考に、現在の修繕計画が妥当か確認する。
  • 専門家による建物診断: 定期的に建築士やマンション管理士などの専門家に建物診断を依頼し、客観的なデータに基づいて修繕計画を見直す。

自分たちだけで判断せず、公的な指針や専門家の意見を積極的に活用することで、計画の精度を高め、将来の修繕積立金不足を防ぐことができます。

運営リスク対策:外部専門家(マンション管理士等)の活用と役割分担の明確化

役員のなり手不足や運営の停滞を防ぐためには、負担を軽減し、運営を円滑にする仕組みが必要です。

  • 専門家への相談: マンション管理士と顧問契約を結び、理事会運営や法的な問題についてアドバイスを受ける。これにより、役員の精神的な負担が大幅に軽減されます。
  • 役割の細分化とマニュアル作成: 「会計担当」「広報担当」「防災担当」など、理事の役割を細かく分け、業務内容をマニュアル化することで、誰でも役員を引き受けやすい環境を整える。

専門家のサポートを得ることで、より適切な組合運営が可能になります。マンション管理士への相談については、以下の記事もご参照ください。
関連記事:マンション管理士への相談で解決できることとは?費用や選び方も解説

自主管理の継続が困難な場合の選択肢

様々な対策を講じても、役員の高齢化や住民の無関心などにより、自主管理の継続が現実的に困難になるケースもあります。その場合は、全部委託や一部委託への移行を検討することになります。

全部委託・一部委託への移行プロセスと総会決議

自主管理から委託管理へ移行する手続きは、一般的に以下のステップで進められます。

  1. 管理会社候補の選定: 複数の管理会社から提案や見積もりを取得する。
  2. 総会での決議: 管理方式の変更には、総会での決議が必要です。区分所有法第39条第1項では、普通決議は「区分所有者および議計権の各過半数」が原則ですが、同項後段により「規約で別段の定めをすることを妨げない」と明記されています。実務上、標準管理規約では「総会に出席した組合員の議決権の過半数」とする場合が多いため、決議要件は必ず個別の管理規約を最優先してください。自主管理では、この規約と法律の関係を誤解したまま決議を進めてしまうリスクがあります。
  3. 管理委託契約の締結: 総会で承認された管理会社と、管理委託契約を締結します。契約前には、管理会社から「重要事項説明」を受ける義務があります(マンションの管理の適正化の推進に関する法律第72条)。

失敗しない管理会社選定のポイントと比較見積もりの注意点

管理会社を選ぶ際は、複数の会社から見積もり(相見積もり)を取ることが重要です。

やみくもに多くの会社へ声をかけるのは得策ではありません。管理会社は見積もりを作成するために、現地調査や各種業者との打ち合わせなど、多大な時間と労力をかけています。特に小規模なマンションの場合、あまりに多くの会社へ同時に見積もりを依頼すると、かえって敬遠されてしまい、質の高い提案を受けられない可能性があります。そのため、候補を数社に絞って、じっくり比較検討することが効果的です。

見積もりを比較する際は、金額の安さだけでなく、以下の点もチェックしましょう。

  • 業務内容の明確さ: 「管理業務一式」のような曖昧な表記ではなく、清掃の頻度や点検項目などが具体的に記載されているか。
  • 担当者の対応: 質問に対して誠実かつ専門的な回答をしてくれるか。
  • 管理実績: 同規模・同地域のマンションでの管理実績が豊富か。

信頼できる管理会社を見つけるための具体的な選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:良いマンション管理会社の選び方とは?見極めるべき7つのポイント

選択肢としての第三者管理方式(外部管理者方式)とは

「役員のなり手がどうしても見つからない」という深刻な問題を抱える管理組合にとって、有効な選択肢となるのが「第三者管理方式(外部管理者方式)」です。
これは、理事会を設置せず、マンション管理士などの外部の専門家が管理者(または理事)に就任し、管理組合の運営を行う方式です。役員の負担から解放されるという大きなメリットがあり、近年注目されています。ただし、専門家への報酬が発生するため、コスト面や運営方針について、組合内で十分に議論し合意形成を図る必要があります。

まとめ:リスクを理解し、あなたのマンションに最適な管理方法を

自主管理マンションは、管理委託費を削減できるという大きなメリットがある一方、専門知識やノウハウの不足から「会計」「建物」「運営」の3つの側面で重大なリスクを抱えています。

  • 自主管理のリスク:
    • 会計・金銭面: 滞納督促の遅れ、不正会計、横領
    • 建物・維持管理面: 専門知識不足による建物の劣化、修繕積立金不足
    • 人間関係・運営面: 役員のなり手不足、合意形成の困難

これらのリスクは、2026年4月に施行される改正区分所有法で新設される「管理不全建物への行政介入」の対象となる可能性もあり、放置すればマンションの資産価値を大きく損ないかねません。対策としては、会計の透明化、専門家による建物診断の導入、外部専門家の活用などが有効です。

もし自主管理の継続が困難な場合は、委託管理への移行も現実的な選択肢となります。その際は、候補を数社に絞り、業務内容や実績を慎重に比較検討することが重要です。

本記事で解説したリスクと対策を参考に、ご自身のマンションの現状を客観的に見つめ直し、住民全員にとって最適な管理方法を選択してください。


参考資料


免責事項

本記事は2025年10月10日時点の情報に基づいています。 2025年5月に成立した区分所有法等の改正法は2026年4月施行予定であり、施行後は本記事の一部内容が変更される可能性があります。

本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件や状況に対する法的な助言や専門的な見解を提供するものではありません。具体的な問題については、弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。また、法令や各種制度は改正される可能性があるため、最新の情報をご確認いただくとともに、個別のマンションの管理規約や使用細則が最優先される点にご留意ください。

佐藤 健一

宅地建物取引士・マンション管理士。マンション管理会社でフロント担当→コンサル会社に転身。累計120組合を支援し、管理費削減や長期修繕計画の再構築に従事した経験18年。

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この記事を書いた人

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