マンション専有部分と共用部分の区分完全ガイド|境界線・修繕責任をプロが解説

マンション購入・入居前の管理規約チェックリスト。5つの重要項目が箇条書きで示されています。「専有部分と共用部分の範囲」「専用使用権のルール」「費用負担の定め」「リフォームに関する規定」「ペット飼育に関する細則」が挙げられています。このチェックリストは、読者が将来のトラブルを未然に防ぐために、契約前に確認すべきポイントを網羅的かつ簡潔に提示します。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

マンションを購入・所有する際、「どこまでが自分のもの?」と疑問に思ったことはありませんか。実は、マンションには自分一人の財産である「専有部分」と、住民全員で共有する「共用部分」という明確な区分があります。この区分を正しく理解していないと、水漏れや設備の故障時に「修繕費用は誰が払うのか」といった思わぬトラブルに発展しかねません。

この記事では、宅地建物取引士の視点から、マンションの専有部分共用部分の法的な定義、具体的な境界線、そして最も気になる修繕の責任と費用負担のルールについて、根拠となる法律や国の指針を基に分かりやすく解説します。この記事を読めば、ご自身の財産範囲を正確に把握し、将来のトラブルを未然に防ぐ知識が身につきます。

【区分所有法の基本】専有部分と共用部分の法的定義

マンションの権利関係を理解する上で、すべての基本となるのが「専有部分」と「共用部分」の区分です。これらの定義は、「建物の区分所有等に関する法律(通称:区分所有法)」で定められています。

専有部分とは?|構造上・利用上の独立性がカギ

専有部分とは、簡単に言えば「区分所有者が単独で所有権を持つ、独立した住戸の内部空間」のことです。区分所有法では、「区分所有権の目的たる建物の部分」と定義されています(出典:建物の区分所有等に関する法律 第2条第3項)。

専有部分として認められるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 構造上の独立性: 壁、床、天井によって、他の住戸や空間と完全に遮断されていること。
  2. 利用上の独立性: 住戸の外部(共用廊下など)から直接出入りができ、独立して住居や店舗として利用できること。

具体的には、リビング、寝室、キッチン、浴室、トイレなど、住戸の壁の内側の空間が専有部分にあたります。この空間内は、原則として所有者が自由にリフォームしたり、売却したりすることが可能です。

共用部分とは?|法定共用部分と規約共用部分の2種類

共用部分は、専有部分以外のすべての部分を指し、区分所有者全員で共有する資産です。これらは住民の安全と快適な生活を支えるために不可欠なもので、管理組合が維持・管理を行います。共用部分は、その性質から「法定共用部分」と「規約共用部分」の2つに区分されます。

  • 法定共用部分: 法律上、当然に共用部分とされる部分です。廊下、階段、エレベーター、建物の骨格となる柱や壁などが該当します。登記は不要です。
  • 規約共用部分: 本来は専有部分になり得る独立した空間でありながら、管理規約によって「共用部分とする」と定められた部分です。管理員室、集会室、倉庫、附属の建物などがこれにあたります。

この区分を理解するメリットは、権利関係の明確化にあります。特に「規約共用部分」は、登記をしておかないと、その部分が共用であることをマンション購入者などの第三者に対して主張できません。

分類 定義 具体例 登記
法定共用部分 法律上、当然に共用部分となるもの(区分所有法第4条) エントランス、共用廊下、階段、エレベーターホール、屋上、外壁、躯体部分など 不要
規約共用部分 管理規約によって共用部分と定められた部分(区分所有法第4条) 管理員室、集会室、特定の駐車場、附属の建物など 必要
(第三者に対抗するため)

(表は視覚補助のためのもので、テキストブラウザではリスト形式で代替:法定共用部分 – 定義:法律上、当然に共用部分となるもの(区分所有法第4条)、具体例:エントランス、共用廊下、階段、エレベーターホール、屋上、外壁、躯体部分など、登記:不要。規約共用部分 – 定義:管理規約によって共用部分と定められた部分(区分所有法第4条)、具体例:管理員室、集会室、特定の駐車場、附属の建物など、登記:必要(第三者に対抗するため)。)

【図解でわかる】どこまでが専有部分?境界線の具体例と判定基準

法律上の定義を理解しても、実際の建物で「どこからどこまでが専有部分か」という境界線は非常に複雑です。ここでは、国の示す「マンション標準管理規約」を参考に、具体的なケースを見ていきましょう。

基本的な考え方:コンクリートの内側か外側か

多くのマンションでは、専有部分共用部分の境界について、以下の考え方を採用しています。

  • : 居室の壁紙(クロス)が貼られている石膏ボードの内側までが専有部分。コンクリート躯体は共用部分
  • : フローリングや畳などの床材は専有部分。床を支えるコンクリートスラブは共用部分
  • 天井: 天井のクロスや天井板は専有部分。その上のコンクリートスラブは共用部分

つまり、コンクリートで囲まれた「箱の内側」が専有部分、「箱そのものと外側」が共用部分と考えると分かりやすいでしょう。ただし、最終的な判断は必ずご自身のマンションの管理規約によります。

ケース1:バルコニー・ベランダは「専用使用権付きの共用部分」

バルコニーやベランダは、専有部分だと思われがちですが、法律上は「共用部分」です。火災などの非常時には、隣戸への避難経路として使われるため、建物全体の安全に関わる部分だからです。

ただし、特定の住戸の所有者だけが排他的に使えるため、「専用使用権」が設定された共用部分という特別な位置づけになります。そのため、勝手に物置を設置したり、避難の妨げになる改造をしたりすることは管理規約で禁止されています。

ケース2:玄関ドアは「内側塗装が専有、鍵と外側は共用」

玄関ドアも複雑な部分の一つです。一般的なマンション標準管理規約では、以下のように区分されています。

  • 共用部分: 錠(鍵)、およびドアの躯体部分(外側・内側の塗装面を除く)。建物の防犯性や外観の統一性に関わるためです。
  • 専有部分: ドアの内側の塗装部分。

つまり、鍵が壊れた場合の交換は管理組合の責任と費用で行いますが、室内側の塗装を塗り替えるのは所有者の自己負担となります。ただし、具体的な区分は各マンションの管理規約によって異なる場合があります。

ケース3:窓ガラス・サッシは「共用部分」

窓ガラスや窓サッシも、建物の外観や断熱性能に影響するため、「共用部分」とされています。一般的なマンション標準管理規約(国土交通省、単棟型)では、これらの修繕は原則として管理組合が行います。 ただし、居住者の故意や過失でガラスを割ってしまった場合は、原因を作った居住者の負担となるのが一般的です。最終的な判断は管理規約を確認してください。

ケース4:室内の配管(パイプスペース)の扱い

住戸内を通る水道管やガス管は、さらに判断が分かれます。一般的なマンション標準管理規約(設備管理関連)に基づき、以下のように区分されます。

  • 共用部分: 各住戸に供給するための供給管(主にパイプスペース内に設置)。他の住戸や共用部分に影響を与える部分です。
  • 専有部分: 供給管から分岐して、キッチンや浴室などの設備に直接接続される分岐管。

この区分を理解するメリットは、水漏れトラブル発生時の責任分界点を明確にできることです。床下や壁内にある「分岐管」からの漏水は居住者の責任、階全体に関わる「供給管」の老朽化による漏水は管理組合の責任となります。ただし、個別の管理規約で異なる規定がある場合があります。

【注意】専有面積の計算方法(内法/壁心)による違い 専有面積の計算には、壁の内側で測る「内法(うちのり)方式」と、壁の中心線で測る「壁心(へきしん)方式」があります。登記簿は「内法」、分譲時のパンフレットは「壁心」で記載されることが多く、壁心の方が面積は大きくなります。これは固定資産税の評価額や、後述する共用部分の費用負担割合にも影響するため、違いを認識しておくことが重要です。

【お金の話】修繕の責任は誰にある?費用負担のルールを解説

専有部分共用部分区分が重要なのは、修繕の責任と費用負担が直結するからです。

原則:専有部分は自己負担、共用部分は管理組合(全員)負担

費用負担の原則は非常にシンプルです。

  • 専有部分の修繕: 所有者が100%自己負担で行います(例:給湯器の交換、室内の壁紙張替え)。
  • 共用部分の修繕: 管理組合が、全区分所有者から集めたお金で計画的に行います(例:外壁塗装、屋上防水工事)。

マンション標準管理規約 第21条(敷地及び共用部分等の管理) 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等のうち専有部分と一体として管理することが合理的な部分の管理は、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

このルールを理解することで、リフォーム費用などを計画的に準備する必要がある一方、共用廊下の電球切れやエレベーターの不具合は、自分で修理するのではなく管理組合に報告すればよい、という判断ができます。

共用部分の修繕費用は「管理費」と「修繕積立金」から

共用部分の維持・管理に使われるお金は、区分所有者が毎月支払う「管理費」と「修繕積立金」で賄われます。

  • 管理費: 日常的な管理に使途が限定されます。共用廊下の電気代、清掃費用、エレベーターの保守点検費などです。
  • 修繕積立金: 将来の大規模修繕のために積み立てるお金です。10数年に一度行われる外壁改修や屋上防水工事など、多額の費用がかかる工事に備えます。

負担割合はどう決まる?|専有部分の床面積比が一般的

管理費や修繕積立金の月々の負担額は、区分所有法第19条に基づき、原則として「専有部分の床面積の割合」に応じて決まります。つまり、広い住戸の所有者ほど、多くの割合を負担する仕組みです。

大規模修繕の決議要件|区分所有法で定められたルール

外壁の補修や屋上の防水工事といった大規模修繕は、共用部分の形状や効用を著しく変更する「重大変更」にあたる場合があります。このような工事を実施するには、管理組合の総会で特別な決議が必要です。区分所有法第17条では、共用部分の形状または効用に著しい変更を加える事項について、「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議」が必要と定められています(出典:建物の区分所有等に関する法律 第17条)。 一方、建物の維持・管理に関する通常の議題は、区分所有法第18条第1項で定められた「区分所有者及び議決権の各過半数による集会の決議」で決議されます(出典:建物の区分所有等に関する法律 第18条第1項)。ただし、管理規約で異なる要件が定められている場合は規約が優先します(区分所有法第3条に基づく)。

よくあるトラブルと紛争解決までの3ステップ

どれだけ注意していても、専有部分共用部分の境界が原因でトラブルが起きることはあります。特に多いのが「漏水」です。万が一の際は、以下の手順で冷静に対応しましょう。

ステップ1:管理規約・図面の確認と管理組合への相談

まずは感情的にならず、トラブルの原因箇所が専有部分なのか共用部分なのかを特定することが最優先です。ご自身のマンションの「管理規約」や「設計図書(竣工図)」を確認し、責任の所在を明らかにします。判断に迷う場合は、すぐに管理組合(または管理会社)に報告・相談しましょう。

ステップ2:専門家(建築士等)による客観的な鑑定

原因箇所の特定が難しい場合、例えば壁内や床下の配管からの漏水が疑われるケースでは、当事者同士の話し合いだけでは水掛け論になりがちです。このような場合は、管理組合が主体となって、建築士や設備業者などの専門家に調査を依頼し、客観的な原因究明を行うことが有効です。

ステップ3:最終手段としての法的手続き(調停・訴訟)

当事者間での話し合いや専門家の調査でも解決しない場合は、法的な手続きを検討することになります。具体的には、簡易裁判所での調停や、地方裁判所での訴訟といった手段があります。区分所有法に関する紛争は非常に専門性が高いため、この段階に至った場合は、弁護士などの法律専門家へ相談することを推奨します。

【プロの視点】トラブルを未然に防ぐ管理規約のチェックポイントと実務のヒント

トラブルは起きてから対応するより、未然に防ぐことが最も重要です。ここでは不動産取引のプロとして、実務的なチェックポイントを解説します。

購入前・入居前に必ず確認すべき項目

マンションの購入を検討する際は、価格や立地だけでなく、必ず「管理規約」に目を通しましょう。特に以下の項目は重要です。

  • 専有部分と共用部分の範囲: どこまでが自己責任か明確に書かれているか。
  • 専用使用権のルール: バルコニーや駐車場、駐輪場の使用細則。
  • 費用負担の定め: 水漏れや設備故障時の費用負担について、具体的なルールはあるか。
  • リフォームに関する規定: 専有部分のリフォーム時の届出義務や制限(床材など)。
  • ペット飼育に関する細則: 飼育可能な種類や大きさ、ルールなど。

「標準管理規約」との違いを把握する

多くのマンションの管理規約は、国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」を雛形に作成されています。もし購入を検討しているマンションの規約が、この標準規約と大きく異なる内容(例えば、窓サッシが専有部分扱いになっているなど)の場合、なぜそうなっているのか理由を確認することが大切です。ただし、複数の建物からなる団地型マンションの場合、敷地全体の管理方法が単棟型と異なる可能性があります。

実務ヒント:管理会社変更時の相見積もり

管理の質やコストを見直すために管理会社を変更する場合、複数の会社から見積もりを取る「相見積もり」が有効です。比較検討する際は、項目ごとに内訳を細かく出してもらいましょう。「一式」などの大まかな項目は避け、管理員業務、清掃業務、各種点検費用といった詳細な内訳を要求することで、各社のサービス内容と価格を正確に比較検討できます。

まとめ:自分の財産を守るために、区分所有の知識を身につけよう

今回は、マンションの「専有部分」と「共用部分」の区分について、法的な定義から具体的な境界線、費用負担のルールまでを解説しました。

  • 専有部分は、住戸の内側の独立した空間であり、所有者が自由に管理・処分できる。
  • 共用部分は、廊下や外壁など区分所有者全員の共有資産であり、管理組合が維持・管理する。
  • 修繕責任は、専有部分は自己負担、共用部分は管理組合負担が原則。
  • トラブルの境界線は、バルコニー、玄関ドア、窓サッシ、配管などで発生しやすく、判断基準は管理規約に定められている。

マンションという一つの建物で多くの人が快適に暮らすためには、この区分を一人ひとりが正しく理解し、ルールを守ることが不可欠です。この記事が、あなたのマンションライフにおける不安を解消し、大切な財産を守る一助となれば幸いです。


免責事項 本記事は、2025年11月時点の法令や情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。個別の不動産取引や法的な問題に関する助言を行うものではありません。実際の契約やトラブル対応にあたっては、必ず最新の法令や対象物件の管理規約をご確認の上、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。法改正時はe-Gov法令検索で最新確認を。


参考資料

  • e-Gov法令検索. (n.d.). 建物の区分所有等に関する法律. 最終改正: 1962年(昭和37年)法、2025年11月確認, from https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
  • 国土交通省. (n.d.). マンション標準管理規約(単棟型). 最終改正: 2025年確認, from https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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