管理会社乗り換えの失敗事例4選|後悔しないための選び方と鉄則

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マンションの管理会社乗り換えは、管理組合にとって大きな決断です。コスト削減やサービス向上を期待して踏み切ったものの、準備不足や認識の甘さから「こんなはずではなかった」と後悔する失敗事例は少なくありません。現在の管理会社に不満があるものの、乗り換え後のリスクを考えると一歩踏み出せない、という理事の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、宅地建物取引士の視点から、管理会社の乗り換えで実際に起きた失敗事例を4つのパターンに分類して具体的に解説します。さらに、失敗の裏に潜む根本的な原因を解き明かし、後悔しないための見積もり取得の鉄則から契約、引き継ぎまでの具体的なチェックポイントを網羅的にご紹介します。最後まで読めば、あなたのマンションで乗り換えを成功させるための道筋が明確になるはずです。

管理会社の乗り換えで発生するトラブルは、特定のマンションだけの問題ではありません。国土交通省が公表した調査でも、管理会社への不満として「管理委託費が妥当か」「業務内容・対応の質」が上位に挙げられており、多くの管理組合が同様の課題を抱えていることがわかります(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(2024年3月公表))。

ここでは、実際に起こりがちな失敗事例を4つの典型的なパターンに分類して解説します。

【事例1】コミュニケーション不足|「聞いていない」で組合内が大混乱

最も多い失敗が、コミュニケーション不足に起因するトラブルです。
理事会だけで話を進めてしまい、他の組合員への説明を怠った結果、総会で承認が得られなかったり、変更後に「聞いていない」と不満が噴出したりするケースです。

また、区分所有者だけでなく賃借人を含む全居住者への連絡先変更の通知が徹底されず、緊急時にどこへ連絡すればよいのか分からずパニックになることもあります。合意形成と情報伝達の不足は、乗り換えプロセス全体を頓挫させる大きなリスクとなります。

【事例2】コスト・契約内容の誤算|安いはずが高くついた罠

「管理委託費が安くなる」という一点だけで乗り換えを決めると、後で大きな誤算が生じがちです。

  • サービス範囲の縮小:以前の管理会社が善意や慣例で行っていたサービス(例:共用部の電球交換、簡単なゴミ拾い)が契約に含まれておらず、別途費用や手間が発生する。
  • 「一式」見積もりの罠:見積もりの内訳が「〇〇業務一式」となっており、詳細が不明確。後から「その作業は契約外です」と言われてしまう。
  • 修繕工事費の高騰:管理委託費は安くても、その後の小修繕や大規模修繕の工事見積もりが割高で、結果的に総コストが上がってしまう。

目先の管理委託費の安さだけに飛びつくと、かえって高くつく失敗に陥ります。

【事例3】業務品質の著しい低下|清掃が雑になり、住民から不満が噴出

コスト削減のしわ寄せは、最も目に見えやすい「日常業務の品質」に現れます。

  • 清掃員の巡回頻度や作業時間が削減され、エントランスや廊下が汚れがちになる。
  • ゴミ置き場の整理が行き届かず、悪臭や害虫の原因になる。
  • 管理人(フロント担当者)の対応が遅く、住民からの要望が放置される。

こうした品質低下は、マンションの資産価値を直接的に損ない、居住者の満足度を著しく低下させる深刻な問題です。

【事例4】杜撰な引き継ぎ|マンション固有のルールが失われる

新旧の管理会社間での引き継ぎが不十分だと、マンションが長年培ってきた独自のルールやノウハウが失われてしまいます。

  • 過去のトラブル履歴や注意すべき居住者の情報が共有されない。
  • 独自のゴミ出しルールや共用施設の利用方法が引き継がれず、混乱が生じる。
  • 長年付き合いのある点検業者との関係性がリセットされ、設備の状況把握に時間がかかる。

特に築年数が経過したマンションほど、図面や仕様書にない「暗黙知」が多く存在します。これらが失われると、管理の質を元に戻すのは非常に困難です。

目次

失敗の裏にある3つの根本原因

前章で挙げた失敗事例は、単なる不運で起こるわけではありません。その背景には、管理組合側と管理会社(またはその周辺業者)側の双方に構造的な原因が潜んでいます。

まず、乗り換えを検討する上で重要な3つの費用について整理しましょう。

用語誰が誰に支払うか主な使途
管理費区分所有者 → 管理組合日常の共用部維持管理(光熱費、保険料、管理委託費など)
修繕積立金区分所有者 → 管理組合将来の大規模修繕工事のための積立金
管理委託費管理組合 → 管理会社管理業務の対価(会計、総会支援、清掃・点検の手配など)

多くの乗り換え失敗は、この「管理委託費」の削減のみを目的としてしまうことから始まります。

原因1:成功報酬型コンサルの「コスト削減至上主義」

管理会社の乗り換えを主導するコンサルタントの中には、「削減できた年間管理委託費の30〜50%」といった成功報酬で契約する業者がいます。この報酬体系は、コンサルタントに過度なコスト削減を促すインセンティブとして働きかねません。

結果として、サービスの品質を度外視したコストカットが進められ、前述のような業務品質の低下を招くリスクがあります。コンサルタントは報酬を得て去りますが、品質低下に悩むのは管理組合と居住者です。

原因2:管理組合側の「安さだけ」を求める過度な期待」

管理会社も営利企業であり、受け取る委託費に見合ったサービスしか提供できません。現在のサービスレベルを維持したまま大幅なコスト削減を求めるのは、多くの場合、非現実的です。

「安くて良いサービス」を過度に求めると、管理会社は最低限の利益を確保するために、見えない部分で業務品質を下げざるを得ません。最悪の場合、不採算を理由に契約更新を拒絶され、再び管理会社を探す羽目になるリスクもあります。

原因3:管理組合の準備不足と丸投げ体質

現在の管理会社への不満を具体的に整理せず、新しい管理会社に何を求めるのかも明確にしないまま、「どこか良い会社を探してきて」とコンサルタントや理事の一部に丸投げしてしまうケースも失敗の元です。

また、悪質な管理会社の手口を知らないこともリスクを高めます。マンション管理適正化法では、管理会社に対して以下の重要な義務が課せられており、これらを遵守しない会社は選定の初期段階で除外すべきです。

  • 重要事項説明の義務(同法第72条):契約前に、業務内容や委託費、契約期間などを書面で説明する義務。
  • 財産の分別管理の義務(同法第76条):管理組合の財産(管理費・修繕積立金)を、自社の財産とは明確に分けて管理する義務。

失敗しない管理会社の選び方・見積もり取得の鉄則

失敗を回避するためには、感情論ではなく、客観的な基準に基づいた冷静なプロセスが不可欠です。ここでは、管理会社を選定し、見積もりを取得する際の具体的なステップと鉄則を解説します。

Step1:乗り換えの目的と要求水準を理事会で明確化する

まず、なぜ管理会社を乗り換えたいのか、その目的を理事会で徹底的に議論し、文書化します。

  • 現状の不満点:コストが高い、対応が遅い、清掃が不十分など、具体的にリストアップする。
  • 新会社への要求事項:現状の不満を解消するために、どのようなサービスを求めるのか。「コストを10%削減しつつ、清掃の巡回頻度は週3回を維持する」など、できるだけ具体的に定義する。
  • 優先順位:コスト、品質、対応速度など、何を最も重視するのか順位をつけ、理事会内で合意形成する。

この「要求仕様書」が、今後の会社選定のブレない軸となります。

Step2:見積もり依頼は2〜3社が現実的【過度な相見積もりはNG】

競争原理を働かせるため相見積もりは必須ですが、手当たり次第に多くの会社へ依頼するのは逆効果です。

管理会社側の視点:見積もり作成は重労働
管理委託費の見積もり作成は、書類を見るだけで終わる簡単な作業ではありません。担当者が何度も現地に足を運び、建物の状況を確認します。さらに、清掃、エレベーター点検、消防設備点検など、多くの協力会社と打ち合わせを行い、それぞれから見積もりを取得する必要があります。理事会との面談も含め、1社に対する見積もり提出には多大な労力とコストがかかっているのです。

5社も6社も相見積もりを取ろうとすると、「受注できる可能性が低い」と判断され、優秀な会社ほど敬遠する傾向があります。特に20戸〜40戸程度のマンションでは、管理会社も積極的に受注しようとしない場合があります。真剣な比較検討のためには、候補を2〜3社に絞って依頼するのが最も現実的で、誠実な対応を引き出しやすくなります。

Step3:見積もり書式を統一し「一式」をなくす

各社がバラバラの書式で見積もりを提出すると、項目を正確に比較することが困難になります。依頼する際には、業界団体が公開している標準的な見積もり書式などを参考に、提出フォーマットを管理組合側で指定しましょう。

その際、最も重要なのが「一式」という表記をなくし、すべての項目を詳細に記載させることです。

(記載例)
NG例:清掃業務 一式 100,000円
OK例
・日常清掃(週3回、各4時間、作業員1名):80,000円
・定期清掃(床面洗浄、年2回):20,000円

内訳を明らかにすることで、各社の強みやコスト構造が見え、より的確な比較検討が可能になります。

Step4:必ず現地調査を依頼し、担当者の姿勢を見極める

書類だけで見積もりを提出しようとする会社は論外です。必ず現地調査を依頼し、その際の担当者(将来のフロント担当者候補)の姿勢を注意深く観察しましょう。

  • 建物のどこを重点的に見ているか?
  • 設備の状況について、専門的な質問をしてくるか?
  • 管理組合の要望を真摯にヒアリングしてくれるか?
  • マンションの良い点、改善すべき点を的確に指摘できるか?

担当者の専門性や熱意は、そのまま将来の管理品質に直結します。

契約〜引き継ぎで後悔しないための最終チェックポイント

候補となる管理会社を絞り込んだ後も、油断は禁物です。契約締結から業務開始までの最終段階で失敗しないための3つの重要チェックポイントを解説します。

チェック1:管理委託契約書で「業務範囲」を1項目ずつ確認

提示された管理委託契約書案を鵜呑みにせず、国土交通省が公表している「標準管理委託契約書」と見比べながら、業務の範囲と内容を一つひとつ確認します。

特に注意すべきは「別表」に記載される具体的な業務内容です。

  • 事務管理業務:会計報告の頻度、総会・理事会の支援内容(資料作成、議事録案作成など)
  • 管理員業務:勤務時間、休日、具体的な業務内容(受付、点検立会い、報告業務など)
  • 清掃業務:日常清掃と定期清掃の頻度、範囲、仕様
  • 建物・設備管理業務:各種法定点検の対象と頻度

不明な点があれば、必ず契約前に書面で質疑応答を行い、回答を記録として残しましょう。

チェック2:総会決議の法的要件を遵守する【最重要】

管理会社の変更は、理事会だけで決定できるものではありません。必ず総会での決議が必要です。なお、決議要件は法律の原則より個別の管理規約が優先されるため、手続きを進める前に必ず自マンションの規約を確認してください。 この手続きを軽視すると、後で決議の無効を主張され、深刻なトラブルに発展する可能性があります。

ここで重要なのは、決議の当事者は賃借人を含む「居住者」ではなく、議決権を持つ「組合員(区分所有者)」であるという点です。

決議の種類法的根拠要件
原則区分所有法 第39条1項
マンション標準管理規約 第48条
普通決議
(組合員総数および議決権総数の各過半数)
例外区分所有法 第39条1項
(「規約に別段の定めがない限り」との規定)
個別の管理規約で特別決議など、より厳しい要件が定められている場合は、その規約が優先される。
⚠️ 最重要確認事項
管理会社変更の決議要件は、必ず自マンションの管理規約を最初に確認してください。区分所有法第39条第1項には「この法律又は規約に別段の定めがない限り」との規定があり、個別の管理規約で特別決議(組合員総数および議決権総数の各4分の3以上など)が定められている場合、そちらが法律に優先されます。

乗り換えを進める前に、まず自分たちのマンションの管理規約を確認し、管理会社変更の決議要件がどう定められているかを正確に把握することが絶対不可欠です。

チェック3:新旧管理会社の引き継ぎに理事も立ち会う

管理会社同士の引き継ぎに丸投げせず、理事会の役員(特にマンションの事情に詳しい長期の役員)が必ず立ち会うようにしましょう。

管理組合側で引き継ぎ事項のチェックリストを作成し、それに沿って一つずつ確認することで、漏れを防ぎます。

  • 管理規約、総会議事録、各種点検報告書などの重要書類
  • 鍵のリストと本数
  • 長期修繕計画の進捗状況
  • 居住者名簿と緊急連絡先
  • 過去のトラブル履歴や注意事項

第三者の目として理事が加わることで、引き継ぎの精度と緊張感を高めることができます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 管理会社の変更には、どのくらいの期間がかかりますか?

A1. 準備開始から新しい管理会社の業務がスタートするまで、一般的に半年から1年程度かかります。特に、候補会社の選定と見積もり取得に2〜3ヶ月、総会の準備と開催に2〜3ヶ月を要するため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

Q2. 理事会だけで管理会社の変更を決定できますか?

A2. いいえ、できません。管理委託契約の締結・解除は管理組合の重要な業務執行であり、必ず総会での決議が必要です。必要な決議要件(普通決議か特別決議かなど)は、ご自身のマンションの管理規約で定められていますので、必ず事前に確認してください。

Q3. 乗り換えにかかる費用はありますか?

A3. 管理組合がコンサルタントなどに依頼しない限り、乗り換え自体に直接的な費用が発生することは基本的にありません。ただし、解約する管理会社との契約内容によっては、解約に伴う事務手数料などが規定されている場合があるため、現在の管理委託契約書を確認する必要があります。

まとめ:管理会社乗り換え 成功のためのチェックリスト

管理会社の乗り換えは、一大プロジェクトです。しかし、正しい手順とチェックポイントを押さえれば、失敗のリスクを大幅に減らすことができます。最後に、これまでの内容を実践的なチェックリストにまとめました。理事会での議論や計画にご活用ください。

管理会社乗り換え 成功のためのチェックリスト
□ 準備段階・なぜ乗り換えるのか?目的と要求水準を文書化したか
・現在の管理委託契約書の内容を全員で把握したか
・マンションの管理規約で「決議要件」を確認したか
□ 見積もり段階・見積もり依頼は2〜3社に絞ったか
・見積もり書式を統一し「一式」をなくすよう依頼したか
・必ず現地調査を依頼し、担当者の姿勢を確認したか
□ 会社選定・契約段階・管理委託費の安さだけで判断していないか
・契約書案の業務範囲を「標準管理委託契約書」と見比べたか
・総会で組合員に十分な説明を行い、質疑応答の時間を確保したか
□ 引き継ぎ段階・管理組合として引き継ぎ事項のチェックリストを作成したか
・新旧管理会社間の引き継ぎに、理事が立ち会う予定を組んだか
・全居住者への連絡先変更等の周知計画は万全か

管理会社の乗り換えは、単なる業者変更ではありません。自分たちのマンションの価値を維持・向上させるため、管理組合が主体性を持って取り組むべき重要な活動です。この記事が、あなたの管理組合にとって最良のパートナーを見つける一助となれば幸いです。

免責事項

本記事は、不動産取引に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、特定の個人または法人に対する法律上・税務上・投資上の助言を目的としたものではありません。

管理会社の変更に関する最終的な意思決定は、ご自身のマンションの管理規約、関連法令、および個別の契約条項等をご確認の上、管理組合の責任においてご判断ください。必要に応じて、弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。


参考資料

  • 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(2024年3月公表)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000127.html
  • 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(※本文中では第48条などを参照)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000080.html
  • e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
  • e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC1000000149

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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